ROTH BART BARON / tigerMos LIVE REVIEW

  一方は自然の根源に身をまかせるような、他方は巨大な自然にがむしゃらにぶつかっていくような。J-POPの定型にはまらない、ロック誕生以前の方法論を導入した新世代バンド2組、tigerMosとROTH BART BARONを観てきた。アメリカでの音楽活動をへて、名古屋に漂着し、レミ街の荒木正比呂と出会いtigerMosを始めたイケダユウスケ、片や幼なじみの二人でバンド結成しアメリカ・ツアーを敢行するROTH BART BARON。彼らの共演はこれで3度目だ。





  OGA(The clubbers)の大陸的な広がりを感じさせる曲のDJから続く形で始まった、その日のROTH BART BARONはサポート3人を含む5人編成。中原鉄也が太く打ち鳴らす和太鼓のようなドラミングに、感傷的なキーボードの音色、進軍ラッパのように響き渡る2つのホーン。勇壮なコーラスを従えてファルセット気味に歌う三船雅也は、曲に応じてアコースティック・ギターとマンドリンを持ち替える。三船が歌う切なく美しいメロディーと、ときに野蛮にすら聴こえる伴奏の対比が強烈に胸に迫る。その一方で伝統的な唱歌をオーケストラの演奏で聴いているようでもある。

  ‟僕らは何にだってなれる”と歌われる「CAMPFIRE」から、三船があこがれる伊福部昭の作曲した映画『ゴジラ』の音楽を連想してしまう。中原が時折叩く木琴、「春と灰」で奏でるミュージック・ソーといったアクセントからじわじわと寂しさや孤独感がこみ上げてくる。“君は僕によく似ている”と三船は歌うが、彼もするとゴジラでもスーパーマンでもないのだ。管楽器隊は心地よい音を鳴らさない。むしろ空気を歪め、ときに調子外れにさえ聴こえる。彼らの生き方、信念を期せず表現している。あちこち衝突していくことを肯定する。いや頭をぶつけ続けているは私の方か? 振り返れば観客もそれぞれ独自のリズムでぎこちなく首を振っている。自発的でオリジナルな踊り。じゃがたらの故・江戸アケミの言葉を思い出した。

  「氷河期#3」で三船は観客にコーラスを請う。いや、ただ一緒に叫ぼうと語りかける。音楽性は全く違うがザ・ブルーハーツや尾崎豊が持っていたような生の衝動。最後の「アルミニウム」でステージから降りてマイクを通さずに叫ぶ彼らは現代日本のフォルクローレを体現していた。



「アメリカントラッド、ここ何年もの間フォークが好きでずっと聞き込んでいて、その申し子みたいなユウスケと出会えたのも非常に運がよかったし、tigerMosだけでなくレミ街の今の音楽性にも繋がった気がしますね。」 荒木正比呂(tigerMos / レミ街)


 一方、イベント主催I-NiOのアンビエントで自然音をイメージさせるDJから綺麗に繋がってスタートしたtigerMos。過酷な世界の象徴、イメージとしての父親に立ち向かい、いかに生き延びるかを歌っているかのように感じるROTH BART BARONに対して、彼らは母なる大自然と同化し、小川のせせらぎ、そよぐ風といった、鍵となる一音から連想の翼を広げていく。

 アコースティク・ギターの小気味いいカッティングを皮切りに、残りのメンバー全員のハンド・クラップとバス・ドラム、重い鍵盤が加わり、ファルセットで踊りながら歌いだすイケダユウスケ。荒木正比呂はキーボードをリズム楽器のように扱い、メロディーは主にシンセサイザーで、隠し味に鍵盤ハーモニカを吹く。ドラムやパーカッションとの重層的な絡み合いから私はダーティー・プロジェクターズのような実験的なインディー・バンドを連想した。

 ベースは今回初サポートでbud music所属、三重のインストゥルメンタル・バンドtioから下田貢。初めての編成とは思えない堂々としたリード・ベースに、機械的に打ち鳴らされるハンマー・ビートが加わり、アリエル・ピンクのような懐かしいニュー・ウェイヴ風シンセが歌いだす。同じフレーズの繰り返しで高揚感を生むハイ・トーン・ヴォーカルが乗ってこちらの心臓も高鳴る。また別の曲では畑を耕す鋤のようなドラムに、マラカスとピアノの響きが、収穫を狙う小鳥のさえずりをイメージさせ、まるでR.E.M.の「最高級の労働歌」。

 パーカッションとドラムスの二人で一つずつ叩いてシンバル・ソロを突然始める。メロディアスなベースがその間の空気を切り裂き、キーボードが一音一音絡んでいき次の曲に突入。変拍子の連続から、初期ピンク・フロイドのようなサイケデリックな音の波を巻き起こしていく。嵐が去れば一転、クラシカルな鍵盤の音色から、ギター弾き語りへ流れ、ダンサブルなリズム隊が加わる。無駄な音は鳴らさない、各所で入っては出る、一瞬の流星のきらめきのような演奏は、万物の生々流転を表すかのようだ。終いにはトム・ヨークを彷彿とさせるクネクネダンスを始めたイケダ。短く切った髪に無造作なあごひげを新たに生やし、彫りの深い顔立ちに凄みが増して、まるで修行僧のよう風貌。

 しかし終演後に話しかけた際、ギョロリとした瞳で大きく頷くさまはひょうきんにすら見えた。ステージで見せる気迫とはそぐわない、三船の飄々として人懐っこい姿とも重なる。彼らからは優しいユーモアを感じる。tigerMosとROTH BART BARON、この2組は、音楽が歴史上果たしていた重要な役目を再び取り戻そうとしている。産業の仕組みに取り込まれる以前、ロックがまだ巨大なエネルギーを放っていた時代に彼らは生きているのだ。


2015年3月27日名古屋新栄vioにて