OGRE YOU ASSHOLE"workshop" REVIEW

ありふれた日常を異世界に変えるサウンドトラック





 即興を交えて毎回生き物のように変化していく彼らのライヴが遂にアルバム一枚分パッケージされた。ライブハウスでの録音素材だけではなくCANのファーストのようにスタジオ・ライヴ録音と合わせて編集されたという本作は現時点での彼らのベスト・アルバムだ。嬉しくて早速iPodで聴きながら夕暮れの街に出た。1曲目「ROPE meditation ver.」は勝浦隆嗣が操るリズム・ボックスの音色から始まって出戸学の郷愁を誘う歌声が乗り、70年代のプログレッシヴ・ロックを思わせる馬渕啓のギターが空間を自在に切り裂いていく。ありふれた日常の風景が変わる。

  コーヒーでも買おうとスーパーに入ったらイヤフォンから「見えないルール」が流れ出した。機械的に反復するビートが巻き起こす音の渦、ドラムに移った勝浦とベース清水隆史が繰り出す正確無比なリズム。この曲を聴きながら商品棚を眺めていたらめまいがしてきた。レジにいる子どもが大声で泣き出したが、違和感なく演奏に溶け込んで元からあるコーラスのよう。OGRE YOU ASSHOLEの楽曲は良い意味であいまいで自然音や周囲の雑音との境界がはっきりしない。

  『ペーパークラフト』初回カセット・テープ収録のインスト「hypnotic」を聴きながら歩道を歩く。同じく『ペーパークラフト』収録の「ムダがないって素晴らしい」と3部作1作目『homely』収録の「フェンスのある家」がメドレーで演奏される。後者は前者に合わせてラテン風のビートでリアレンジされている。その狂騒が止むと2作目『100年後』から「夜の船」が始まる。これは原曲よりシンプルなアレンジ、冒頭弾き語りスタイルで始まり出戸の歌うメロディーがより引き立つ。3曲の流れによって3部作が一貫したテーマで作られたことが示されている。

  続いて彼らが全国的に注目された2007年作『アルファベータ vs. ラムダ』からトライバルなビートにアレンジされた「フラッグ」、もはやバックの演奏の激しさに出戸の朗読が埋もれてしまった「ペーパークラフト」をへて終盤9曲目の「ROPE long ver.」が流れ出した頃、気付けばすっかり陽は落ちていた。馬淵のハード・ロック風ギター・プレイにPA卓の中村宗一郎がレーザー光線のような音を加えて不思議な効果を演出する。見上げれば建設途上で放り出された国道バイパスの陸橋が要塞のようにそびえ立ち、周りはうっそうとした茂みで覆われ異世界に迷い込んだかのようだ。正確に打ち出される勝浦のドラムと、ワウ・ペダルを踏んでファンキーにカッティングする出戸のギターが合わさり、何か不気味な生き物の足音のように響き出す。

  先日名古屋でROVOとのツーマンを観た際も最後にこの曲が演奏されていたのだが、曲間に出戸が汗を拭い天井を見上げたとき、夏の野山で満天の星空を見上げる彼の姿が見えた気がした。どんなにアヴァンギャルドな演奏を繰り広げているときでも彼らの魂は故郷長野の大自然にあるのかもしれない。最後にイヤフォンから流れだした「他人の夢 (coda)」がまるで映画のエンドロールのように現実に引き戻して、気づけば私は何の変哲もない近所の空き地にいた。