レミ街"フ ェ ネ ス テ ィ カ" REVIEW

COOKIE SCENE REVIEW (LINK)

以下はクッキーシーンへの寄稿とは全く別内容のレビューです。


「80年代のニューヨークではテリー・ライリーのような現代音楽とニュー・ウェイヴ・ディスコの融合が起こっていた。『ペーパークラフト』でのミニマル・メロウというテーマはそれに近いかもしれない」。OGRE YOU ASSHOLEのメンバーは繰り返しそう語っている。

また、特にアーサー・ラッセルの名を挙げ同性愛者特有の何かがあると語る。性的嗜好自体が問題なのではない。何らかの理由でメインストリームではない人々、世間の多数派の意見と相容れない人々が持つ感覚だ。何かが生まれつき損なわれ、あるいは異なっていて、他者と同じように当たり前の伝統的な感覚を引き継ぐことができない。




名古屋のトラック・メイカー荒木正比呂の作る音楽からも似たフィーリングを私は感じる。企業の依頼でCM音楽等を作り、様々なバンドのミックス、マスタリングもこなす、その彼が率いるユニット、レミ街の新作が素晴らしい。tigerMosのイケダユウスケがヴォーカルで客演した「Yakusoku」ではフィッシュマンズのような和製ダブ・レゲエからの影響を感じるが、本作を通して聴いて私がイメージしたのは、今は損なわれてしまった暖かな肌感覚だった。

ミニマルな打ち込みから出発してメロウな生演奏で肉付けしていく。不完全な記憶を補い再構成する。イメージの中でだけ、かつての恋人、肉親の姿がありありと浮かび上がる。

さらにいえばレミ街の音楽はビョークが現れたときの感覚に通じるかもしれない。クラシックやフォークのようなルーツ・ミュージックをそのまま継承していくのではなく、良さを受け入れつつあくまで自分の価値観のなかでその要素を再利用している。例えばカモシカの種そのものを保存していくのではなく、その引き締まった脚力のみ取り出して流用するような。

ところで荒木が音楽を始めたきっかけは、幼い頃に兄からもらったカセット・テープに録音されていた久石嬢が手がけた映画『風の谷のナウシカ』サウンドトラックだったという。テリー・ライリーなどに影響を受けミニマルな現代音楽を志向した久石嬢が80年代に作り上げた出世作だ。そういえば音楽性だけでなく映画の世界観も本作に通じるところがあるかもしれない。

不完全であるからこそ完全を夢見るような音楽。99%精巧で残り1%を埋めるために苦闘する音楽は、ときに最初から100%なものを凌駕してしまう。