Awakenings

映画『レナードの朝』(Awakenings)を観ました。

ランディー・ニューマンがサウンドトラックを担当し、ゾンビーズの「Time Of The Season」が使われていることで興味を持ったのですが、神経内科医オリヴァー・サックスによるノン・フィクションの、フィクションによる映画化だったのですね。

嗜眠性脳炎(眠り病と呼ばれていた)の患者レナードに当時の新薬ドーパミンを投与したら、 30年ぶりにはっきり覚醒し活動できるようになったが……。以降ネタバレ含みます。





この映画は生きること、今この瞬間の素晴らしさを教えてくれます。

心優しいが人付き合いの苦手なセイヤー医師(ロビン・ウィリアムズ)が、患者レナード(ロバート・デ・ニーロ)や看護師エレノア(ジュリー・カブナー)との関わりを通して、成長していく物語としても観ることができます。

もともと研究者であるセイヤー医師は、職場でも学会でも、場にふさわしくない発言や行動ばかり繰り返し、周囲にバカにされています。女性と関わることもできず、いい年になっても独身です。せっかく好意を寄せてくれている看護師エレノアの名前さえ覚えていません。

30年ぶりに目覚めたレナードは、セイヤーに「エレノアはあなたをとても優しい誠実な人だと言っていた」と教えます。ある日、深夜に呼び出して「新聞には悪い事件ばかりだ。生きる大切さをみんな分かっていない!」と一晩中説教します。

中盤、外出を禁止され興奮状態になったレナードは「問題(病気)は俺達ではなく彼ら(医師)にある。自分達の無為無能を隠している」と叫びます。他の医師は、ドーパミンの副作用による精神症状で片付けようとします。しかしセイヤーは「30年も眠り続けた鬱憤なんだ」と理解しようとつとめます。

少年の頃から病気で眠り続けていたレナードというキャラクターを通して、この映画は現実世界の醜さを激しく糾弾しています。五体満足なはずのお前達はいったいなぜ人生を、そして世界を浪費しているのだ?と。

レナードは偶然出会ったポーラという女性に恋をします。しかし後半、病気が再発し、会話することも困難になっていく。そんな彼の手をとってポーラはダンスに誘う。殺風景な病院の食堂が一転、華やかなダンス・パーティーの場に変わる。レナードとポーラを見つめる人々の瞳はとてもあたたかいです。何気ない日常風景を切り取った、作中で最も美しいシーンです。贅沢に着飾って多くの人に囲まれるばかりが幸せではない。その一瞬を精一杯生きて、どのように感じるかが大切だと、この映画は教えてくれます。

一方で、治療によって目覚めた人々の何人かは、夫が勝手に離婚したり、妻は施設に、息子は行方不明と、浦島太郎状態になっています。「ペテンにかけられた気分だ。こんなことなら目覚めなければよかった」。ある老人は毒づきます。

セイヤーは、そういった人々と向き合い、新薬を試したことは果たして良かったのか悩みます。「また奪われるのなら最初から何もしないほうがよかったのか」とも。エレノアは言います。「命とはもともと、与えられ、奪われるものなのよ」。

この作品のなかで、本当に目覚めた(Awake)のは、ドーパミンを投与されたレナードではなく、投与したセイヤー医師だったのだと思います。