CRUNCH /Homecomingsと80年代ポップス

京都のホームカミングス「I Want You Back」は彼らなりのクリスマス・ソングだそう。あるイベンターは「名古屋のCRUNCHと京都のホームカミングスをタイバンさせたら合うね」といい、ある友人は「ホームカミングスのギターはジョニー・マーっぽい、ザ・スミスがクリスマス・ソングっぽいのか?」といいます。

ニュー・オーダーを愛するガールズ・バンドCRUNCHのギターはスウェードのバーナード・バトラー経由のザ・スミス隔世遺伝で、ザ・スミスのジョニー・マーは50年代ロカビリーや60年代ガール・ポップスの影響をロックに落としこんでいます。だから分からなくもない。

ホームカミングスもCRUNCHも、あるいはミツメ、Yogee New Waves、吉田ヨウヘイgroup、ロット・バルト・バロンといった昨今のインディー勢は、海外のギター・ポップや、フォーク、ブルース、そしてソウル、ジャズ等レア・グルーヴな要素をJ-POPとして昇華したという点で似ています。私は勝手にこの流れを10年代「オルタナティヴ・ポップAlternative Pop」と呼んでいます。

CRUNCHには「Simple Mind」という曲がありますが、《Factory》の創始者トニー・ウィルソンは「ジョイ・ディヴィジョン/ ニュー・オーダーの影響はポスト・パンク、ニュー・ウェイヴを経てU2シンプル・マインズ(Simple Minds)に受け継がれた」と語っていて偶然の必然を感じさせます。 ザ・スミスがデビューした80年代半ば。その頃、ポスト・パンクはすでに失速しつつあり、MTV全盛と呼応してより分かりやすいポップ・アクトが時代を席巻したといいます。ボブ・ディランの後を継ぐように若者の代弁者となったブルース・スプリングスティーンは言わずもがな。ニュー・ウェイヴの売れる要素を濃縮したデュラン・デュラン、ソウルの80年代的解釈としてカルチャー・クラブマイケル・ジャクソン、実は英ポスト・パンク、米ノーウェイヴのファンク、ダブ周辺要素をうまく流用していた(?)プリンスといったメガ・アーティストが出現しました。

ポスト・パンクの代表格であるオレンジ・ジュースのファンだったジョニー・マー、そしてプレ・パンク期のバンド、ニューヨーク・ドールズをこよなく愛するモリッシーの二人が組んだザ・スミスは、パンクまっただなかでもなく、さりとてハッピー・マンデーズストーン・ローゼスプライマル・スクリームオアシスといった後のマッドチェスター・ムーブメントとそれ以降のバンドとも時間的にも音楽的にも距離がある。まさしく狭間のバンドで決して時代と寝ていません。デヴィッド・ボウイ『Let’s Dance』でついにカルト・スターから脱却したのと比べて、早すぎるバンドの空中分解も含めてあまりにも不憫。

しかしだからこそあらゆる時代を超えて輝き続ける存在となったのかもしれない。私のいう「オルタナティヴ・ポップ」とは、そういった狭間のポップス、境界に位置し、時の試練をへて乗り越えていくような音楽を指しています。


Homecomingsの1st full Album 『Somehow, Somewhere』から「GREAT ESCAPE」
CRUNCHの2nd mini『Simple Mind』から「Simple Mind fredricson remix」 (FreeDL)



Homecomings『Somehow, Somewhere』

今、日本のインディー・ロックは海外から熱い視線を浴びている。特に京都のバンドについて言えば、北米ツアー以降、海外でたびたび取りざたされた宇宙コンビニ、2014年の『THE PIER』 が数々の海外ブログで取り上げられたくるり、そしてNMEでインタビューされたtricot等が挙げられる。そして忘れてはならないのが本稿の主役Homecomings。彼らの音楽は日本の若者だけではなく、JAPAN TIMESのライター陣をはじめ外国人からも好評だ。現行海外インディーを意識したバンドがシーンに氾濫するなかで、とりわけ上述のバンドが支持される理由はなんだろうか。

結成当初のテーマはザ・スミスやザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートのような音楽だったという。Ano(t)racksというシティ・ポップ、ネオ・アコースティックに比重を置いたネット・レーベルからのリリースもあって、初期作品では実際、アノラック、ジャングリーという言葉で語られがちだった。しかしこのファースト・フル・アルバムで彼らはローファイなイメージを払拭する。輪郭のはっきりしたサウンドで本来の彼らの武器であるグッド・メロディーを全面に押し出し、流行りのシーンから脱出を試みた。

インタビューによれば、彼らは京都のハード・コア勢とも多く共演し、特にギター、作曲の福富優樹は両親の影響で80年代の洋楽ポップスを聴いていたという。すると、彼らの音楽性が熟成されていく過程は、やや乱暴に言えば、THE BLUE HEARTSやスピッツといったパンク以降の流れを汲んだJ-POPの先人たちと似ていまいか? 現行インディーからの影響はバンド初期のさわりに過ぎず、ザ・スミスを始めとした80年代への憧憬が根幹にあるのかもしれない。

 一般的にはTHE BLUE HEARTSからの流れは、90年代後半から00年代、空前の青春パンク・ブームへ繋がったとされているが、表面的なスタイルはともかく、精神性、音楽性の根幹は、スピッツや、ART-SCHOOLなど後続の和製ギター・ポップ/シューゲイザー・バンドに受け継がれ、10年代の今、そのバトンはHomecomingsに渡ったのかもしれない。

  つまり彼らが日本だけなく、海外の人からも支持されているのは、単に現行海外シーンを模倣するのではなく、その源流にあるパンク以降の80年代洋楽ポップスの最良の部分を現代の若者の感性で蘇らせ、日本独自のポップスとして更新しているからではないか。


ki-ft 【レビュー】Homecomings『Somehow, Somewhere』