Goat"Rhythm & Sound" REVIEW

心臓のビートに直接訴える、踊れる、徹底的に無駄を削ぎ落とされ反復するリズム。OGRE YOU ASSHOLEの12インチ「見えないルール」を聴いた時感じたことが、goatの新作でより突き詰められた形で表現されていた。

 インストでギター、ドラム、ベース、サックスという編成で、メロディー楽器を強制ミュート、ときにドラム・ソロに聴こえるほど。手数、音数自体も絞ってリズム、ビートの骨格を強調する。80年代にEP-4が行ったような音の実験と重なる。同じリズムの繰り返しが続き、気持ちいいフックとなるメロディーが鳴らされそうで鳴らされない。だからこそちょっとした瞬間のギターの煌めき、サックスの一吹きから至上の快感がもたらされる。

 1曲目の「Rhytm & Sound」後半で鳴らされるサックスは虎の咆哮のようだし、2曲目「Solid Eye」では時折ガムランのような響きのギターが加わったり、随所の工夫から世界各地の民族音楽を思わせる。異国の島々の海岸、大陸の草原といったイメージが浮かぶ。しかしそれは奏者が意図したわけではなく、聴く者のインナースペースを刺激して様々な場所を想起させるのだろう。続く「FP」では和太鼓のような音が単調にひたすら繰り返されるが、続く4曲目「Ghosts Part 1」では短く吹かれるサックスと共にビートは速まり、能や歌舞伎の舞台が脳裏に浮かぶ。侍の果し合いだったり、何らかの舞踏であったり。その思いは最後の「On Fire」で確信に変わる。曲名通り、火を噴くように暴れるサックスとギターに、リズム隊も禁欲を解除して思う存分踊りまくる。



 CDジャーナルでのインタビューによれば、本作はまず日野浩志郎がパソコンで全てのデモを作った。 OGRE YOU ASSHOLEのドラマー勝浦隆嗣と同じで“機械になりたい”という思いさえあるという。ただ、機械のように正確に人間が弾くということが重要で、機械ではダメ。逆に人が弾きさえすれば自分よりもっと上手い人にギターを弾いてもらうのでもいいのだそうだ。限りなく0に近づけるにせよ、人が弾く揺らぎが必要なのだろうが、その理由を日野は明確にしていない。だから以下は私の考えだ。

本作で正確無比に繰り返されるリズムは現代社会のメタファーである。高度に発展したようでその実、悪循環を繰り返し行き詰り続ける世界。その情景を機械で完璧に演奏してしまったら、脱出口が完全に閉ざされ元も子もない。だからといって安易な突破口があるかのような快楽的な表現は“今”ではない。解決の糸口になる“揺らぎ”はほんのわずか。それを注意深く広げこじ開ける。そのために我々はgoatが鳴らすリズムで踊り、そこで鳴らされるべきメロディーを再現するのだ。