Malerai Uchihashi Maya R "Utsuroi"(移ろい) INTERVIEW



“『移ろい』のテーマは、「日本語という言語を通して知覚する世界」です”。 

シンガーMaya Rは語る

言い換えれば、このプロジェクトでは、日本語によるサウンド・イメージが大切ということだ。このアルバムを聴けば、日本文化を知ることができる、あるいは日本へ旅することができる。



ポーランドのユニットMaleraiはミハウ・グルチンスキ(クラリネット)、ミコワイ・パロシ(チェロ)、そしてダグナ・サドコフスカ(バイオリン)、から構成される。彼らは、日本のアヴァンギャルドなギタリスト、ダクソフォン奏者、内橋和久と、ポーランドと日本のハーフであり、Rara AvisのヴォーカリストMaya Rと、エクスペリメンタルなジャズ・プロジェクトを作った。

内橋和久によれば、ワルシャワの音楽シーンは大阪のアンダーグラウンドと似ている。彼らは異なる背景を持つミュージシャンと積極的にコラボレートするという。Maya Rによれば、このプロジェクトはMaleraiのパフォーマンス・アートとして始まったという。しかし最近になって彼らはアルバム丸ごと日本語で作ろうと決めた。Maya Rはニーチェと原田芳裕の詩を選んだ。原田は彼女の友人で、「移ろい」は変化していくことを意味する。彼は「移ろい」と名づけられた詩の中で、私たちの感情とともに季節が変化していくことを書いた。侘び寂びと呼ばれる日本の風情だ。

ミハウが選んだ、河東碧梧桐の俳句(日本の短い詩)がこのミュージック・ビデオに用いられている。碧梧桐は正岡子規の弟子で俳句の定型(5-7-5)を壊した。同じように、このプロジェクトはポップス、ロック、ジャズの間の境界だけでなく、人種の壁をも壊し、差別を緩和するだろう。


Hototogisu / 不如帰 / kukułka / The cuckoo


Rehearsal and concert You Tube



ヴォーカルのMaya Rさんのお話

私、Maya Rは、ワールド音楽とエレクトロ音楽を融合させたRara Avisのヴォーカルとしてポーランドで活動しています。しかし私は元々その中核メンバーではなく、日本でソロ・アルバムを制作中です。ソロ活動を本格的に再開するまでの間、様々な音楽プロジェクトに参加させていただいております。

『移ろい』プロジェクトのテーマは、「日本語という言語を通して知覚する世界」です。アルバムには三人の詩人の作品が収録されています。河東碧梧桐の俳句、ニーチェの日本語訳、原田芳裕の詩です。

河東碧梧桐の俳句についてですが、アルバムのプロモーション・ビデオでも使われている『不如帰』、他三曲に用いられています。これらの俳句はミハウ・グルチンスキが選んで作曲し、私が歌を入れました。当初は彼のパフォーマンス・アートの一環として歌っていたのですが、最近になってグルチンスキが「言語をテーマにした音楽」というアルバム・シリーズを始め、「日本語をテーマにしたアルバムを作ろう」という話になり、そのため他の詩も加えました。

ニーチェの和訳についてですが、大学で哲学科に所属していた私が「ニーチェを日本語で歌うのはどうか」と提案し、お気に入りの詩をいくつか選びました。河内信弘さまが翻訳された『ニーチェ詩集』から選んだ詩はミハウが作曲をして、内橋和久さんの奥様である華英(Kae)さまがドイツ語から翻訳された詩は、内橋さんが作曲をしてくださいました。

原田芳裕さんは私の友人で、本業のほかに詩人として詩集も出版していたので、今回、彼の作品からもいくつか選ばせていただきました。特に「移ろい」という詩は、タイトルの意味合いも今回のコンセプトにぴったりだったので、アルバム/・タイトルに使わせていただき、アルバム最後に収録されています。




ポーランドのポップスに造詣が深い音楽ライター/翻訳家パウラさんからお聞きした内容

ポーランドではどの家にも必ずジャズのCDがあるというくらい、ジャズが聴かれています。この10年くらいで英語が普及して、そのせいかは分かりませんが、国外の音楽も熱心に聴かれています。Maya Rさんとは日本とポーランドのハーフ・コミュニティーで知り合いました。ポーランドの音楽シーンは、東京と比べてフレンドリーというか、敷居が低いんです。アポイントを取ってワルシャワに行けばたくさんの優れたミュージシャンとお友達になれるはずです。よそものを拒まないというか、内橋和久さんがおっしゃっていたように、大阪とワルシャワのシーンは確かに似ているかもしれませんね。 彼女が参加しているRara Avisについては私のブログを読んでみて下さい。



東欧ジャズに詳しい音楽ライター、オラシオさんのお話

「移ろい」は河東碧梧桐の俳句やニーチェの詩などをあえて日本語で歌うという、ポップ、チェンバー・ロック、エクスペリメンタル・ジャズなどがミクスチャーされたユニットです。ポーランド発のプロジェクトでありながら、あえて外国語(ポーランドにとっての)で歌うということがテーマになっている、一連のプロジェクトシリーズのひとつのようです。

内橋さんとMaya Rさんの馴れ初めはよく知りません。ポーランドに行った時、Maleraiのミハウ・グルチンスキを介して知り合ったようです。Maya R.さん、思春期はポーランドで過ごしたそうです。彼女は若手のジャズ・ミュージシャンたちが結集して録音した、グラスパーのBlack Radioのポーランド版のようなプロジェクトUnited States Of Betaの作品Poles Jazz The Worldの収録曲の作詞(英語)も手がけています。

Maleraiはヴァイオリン、チェロとクラリネット(バスクラ、サックスも使い分ける)の三重奏編成の現代音楽ユニット。ヴァイオリンのダグナ・サトコフスカとクラリネットのミハウ・グルチンスキは夫婦で、一昨年の内橋和久プロデュースによる『今ポーランドがおもしろい#2』で来日しています。この夫婦はピアノ、パーカッションとの現代音楽四重奏団Kwartludiumでも並行して活動しています。Kwartludiumは最近エレクトロニクス・ミュージシャンのJacaszekとの共演作を発表、音響系のファンを中心に注目を集めています。

Maleraiとしては、他に現代ポーランド・シーンを代表する奇才として知られるジャズピアニストのMarcin Masecki、女性ヴォーカリストのHanna Goldsteinとのイディッシュ語歌唱プロジェクトも発表されたばかり。

ミハウは特にヴァーサタイルな器楽奏者で、ビート・ボックスとのデュオ・アルバムから、ソリストとして参加したクラシックの協奏曲まで多彩な活動をしています。